高台の切り込みは何のため?
萩焼の茶碗には高台(こうだい)と呼ばれる器の足の部分に切り込みを入れたものが多く見られます。これは切り高台と呼ばれ、萩焼の特徴のひとつとしてよく挙げられるものです。切り高台を萩焼独自の特徴と思っておられる方も多く、時には「高台を切っていないものはニセモノですか?」という問い合わせもありますが、そんなことはありません。逆に、高台が切ってあれば萩焼の証、というのも間違いです。だって、それならどんな土や釉薬を使っても萩焼ができるということになってしまいますものね。
●なぜ萩焼の高台に切り込みがつけられるようになったのか
これについては諸説ありますが、
萩焼は藩の御用窯であったため庶民が使うことは許されなかったが、高台に切り込みを入れることによってわざと「キズモノ」とし、庶民が使うことを許した
というのが広く知られている理由です。これは聞くとなるほど、と感心する説ではありますが、実は以下のような理由から誤りとする意見もあります。
・萩焼が起こる以前の焼物にも切り高台が見られること
・宮家の方用に誂えた萩焼(菊屋家住宅に展示)にも切り高台が見られること
(御殿様より身分の高い宮様にキズモノをお出しするの…?)
・御用窯の品をそのような形で流出させることはない
などです。
切り高台の謂われとして この他に、
・器を重ねて運ぶ際に荷縄が引っかかり易いようにするため
・萩焼は水が浸透するので、高台部分が完全に円になっていると蒸気が高台部分にこもったり、器がテーブルにくっつく(お椀の蓋が取れなくなるのと同じ原理ですね)のを防ぐため、切り込みを入れて空気や蒸気を抜く
・焼成時に高台部分まで火が通りやすくするため
・満月より三日月に風情があるように、完全なものより欠けたものの方が味わいがあると考えられたため
などが挙げられます。実用的な理由から意匠的な目的まで様々ですね。
萩焼の高台に切り込みが施される理由としては、萩焼の元となった朝鮮李朝にその手法が見られることから、それがそのまま伝わったものとするのが自然でしょう。けれどもその発祥については結局どれが正しいという結論は出ていませんし、いくつもの要素が合わさった複合的な理由かも知れません。
●高台の役割
切り高台の他にも、平たい高台に十字などに削りを入れた「割り高台」や、高台らしい立ち上がりがなく内側に削り混んだ「碁笥底(ごけぞこ)」など、様々な高台があります。高台には器を支えたりお茶の熱さが直接伝わらないようにしたりする大切な機能がありますし、茶碗において高台の意匠は器の鑑賞の重要なポイントでもあります。また装飾の少ない萩焼では、高台部分のデザインが器全体の印象を決める大きな要素にもなります。また萩焼では土見せと言って釉薬を掛けない場合も多いので、陶工達のこだわりが表れ易い部分のひとつとも言えるでしょう。
次の器選びには高台にも注目すると、より楽しいのではないでしょうか。