水漏れする湯呑

2011/01/09

「先日萩で買ったお湯呑にお茶を入れたら、器の外に染み出て来たんです。不良品ではないでしょうか。」

こうしたお電話は、実は少なくありません。実際萩焼は漏れるからです。初めてお聞きになる方はびっくりなさるでしょう。確かに水が漏れる器なんて、普通あり得ませんよね。

でも、実はこの“漏れ”こそ、萩焼の最大の特徴とも言えるものです。これは焼物にとって命である“土”と“焼成”に起因しています。

●なぜ萩焼は漏れるのか

萩焼の特徴は、何と言ってもそのやわらかな土味。手に持った時の馴染み方のすばらしさやあたたかな風合いは、萩焼特有の陶土によってもらたらされます。

萩焼で使う土の特徴は、目が粗く、焼き締まりが少ないこと。つまり、土の粒子が粗く、すき間がたくさんあるのです。さらに、器の表面の釉薬(うわぐすり)には「貫入(かんにゅう)」と呼ばれるクラック状の細かいヒビが入っているため、水分がヒビから器の中に浸透し、さらには表面にまで出てくることがあります。

●漏れる器をどうやって使うのか

はじめは漏れていた湯呑も、繰り返しお茶を入れるうち、粗い土の目がだんだん茶渋で詰まって漏れなくなってきます。それと同時に茶渋の色が器に入り、器全体の色が変わって見えてきます。これは「萩の七化け」と呼ばれ、萩焼ならではの味わいとして、特に茶道の器などで萩焼が珍重される大きな特徴です。

陶土や釉薬の種類、または焼き方によって、漏れが少ないものと多いものがあります。漏れが多いものや、あまり色の変化を好まれない場合は、漏れ止めを施すとよいでしょう。

●家庭でできる漏れ止め法

おもゆ(フノリやカタクリでも可)を萩焼に入れ、半日から1日程度浸透させます。十分浸透したら水洗いして、風通しのよいところでよく乾燥させます。漏れが多い場合はこれを何度か繰り返すと漏れはかなり少なくなります。

古くから行われている方法で、安全で萩焼の風合いも損ないません。
○ おもゆ 少量のお米かご飯に10倍前後の水を入れて煮たたせ、糊状にする。
○ フノリ 板ふのり(文具店などで販売)を水で煮、糊状にする。
○ カタクリ 水溶き片栗粉に熱湯を注いでとろみをつける。

◆はじめから業務用の漏れ止めを施しているお店もあります。購入の際に聞いてみると安心ですね。

●器を育てる

 正直、この浸透性=漏れは、はじめは面倒に感じられるかもしれません。でも、理解した上で使ってみれば、むしろ楽しめるようになるから不思議なものです。漏れの止まり具合や色の変化を見ながら日々器と対話していくのですから、器への愛着が湧かないわけがない!と思いませんか?

萩焼は人の手に渡り、使い込まれてようやく完成品となるそうです。愛情を持って育てていけば、きっとあなただけの萩焼となって応えてくれることでしょう。